侵略2016

 地球から光の速さで進んで、ちょうど一年かかる距離に一隻の宇宙船が浮かんでいた。船は周りの暗闇に完全に同化しているので、船内にいる者たち以外、この宇宙船を知る者はいない。
「そろそろあの星を攻め落とす算段を立てなければいけない」
 船内の会議室では宇宙人たちがテーブルを囲んでいる。緑色の体で、腕が六本有り、首が無い。
「通信班、何か情報は得ることができたか?」
 体の大きなリーダーがゆっくりと言った。体の細い者が頷いて答えようとしたところで、目つきの鋭い者が口をはさんだ。
「いい加減このような面倒な手続きはやめるべきだ。我々の力をもってすればあの程度の星など一日で手に入れることが出来る」
「まあ待て」
 リーダーがたしなめるように言う。物腰は柔らかいが、目線は鋭く相手を睨みつけている。
「我々は伝統を重んじる。いかなる星であれ、相手のルールを確認し、それに則って戦う。先祖代々の決め事だ」
「無駄なことだ」
 目つきの鋭いはそう言うが、放った言葉には力がなく、諦めたような雰囲気が漂う。
「さあ、通信班」
 改めてリーダーが促すと、体の細い者は咳ばらいを一つして口を開いた。
「前回の会議では、最初の侵入先と、侵略の展開方針が決定されました。あの星には海がある。まず攻めるのは、比較的文明が進んでおり、なおかつ島国であるという条件で浮かび上がった国です。我々はその国の言語を解析し、通信を試みました。軍部への連絡は今回も駄目です。お話になりません。なので一般の民間人の意見を参考にしました。今回はブンツーを使いましたが、これがなかなか骨の折れることで」
「おい」
 リーダーの横にいる、目つきの鋭い者が苛立った声を上げた。
「御託はいいんだよ。どういうルールで戦えばいいのか、それだけを喋れ。戦うのは俺たちなんだ」
会議室に殺気立った空気が流れる。
「すみませんでした。我々の労力も理解してもらいたかっただけです」
「続けろ」
「はい。あの星は争いが溢れているようですが、ルールは特にありません。皆好き勝手にやっているようです。ただし一点だけ、使ってよい武器に制限がありました。ブンツーの相手がしきりに伝えています」
「どんな武器だ?」
「それは」
 細い者がその武器を説明すると、みな黙り込んだ。しばらく誰もが何かを考えるようにうつむいて、最後にはリーダーを見た。
 リーダーは冷徹な薄笑いを浮かべている。
「それは、面白い。そんな制限は初めてだ。今回は多少は楽しめそうだな。いつも圧勝ではつまらないからな」
 その言葉に、みな同じような笑みを浮かべる。
「兵長、その武器はどの程度で調達できる?」
「三日もあれば十分だ」
 目つきの鋭い者が答える。
「では侵攻は四日後とする。それまでは各自準備をしておくように」
 その言葉を最後に、宇宙人たちは部屋を出て行った。
 ひとり、部屋に残った体の細い者は、窓の外をじっと見ていた。暗闇の向こうに、青いビー玉のような地球が浮かんでいる。

「首相! お逃げください。早く」
 受話器を耳に当てるなり、そんな言葉が流れてきた。声に鬼気迫るものがある。
「どうした」
 首相は素早く答える。
「敵襲です。我々では勝てない。防衛軍の配備を。そして首相は一刻も早くここから…」
 話は底で途切れ、それ以降は雑音と銃声に変わった。おそらく警備が敵と戦い始めたのだろう。
 男は素早く受話器を置き、何やらボタンを押して再度受話器を取り上げた。
「すぐにここと、ここから半径十キロメートルの範囲に防衛軍の配備を。特例だ」
 それだけ告げると受話器を投げ出し、走ってその部屋から出た。廊下に出ると、体の大きなSPが六人、首相を囲むように一緒に走った。遠くの方で銃声が鳴り続けている。銃が効かないのだろうか。首相はそう考えた。ミサイルならどうか。防衛軍の初期配置は四分でできる。それで何とかなるはずだ。
 裏口へ続く曲がり角を曲がったところで、前方を走っていたSPが急に立ち止まり、首相もSPの背中にぶつかるようにして止まった。SPの脇から覗くと、廊下の先には得体のしれないものが立っていた。緑色の体で、腕が三本あり首がほとんどない。それぞれの手には長細く黒光りする、先の尖った棒が握られている。SPはみな銃を構えているが、異様な光景に誰もが黙っている。
「あんたが、この国のリーダーか?」
 目つきの鋭いその者は銃を気にする素振りも見せず、首相の方へ歩き始めた。
「撃て」
 SPの一人が言い放ち、すぐに連続的な発砲音が廊下に響き渡った。しかしその者は平気で歩いてくる。銃弾は、柔らかいクッションに当たるパチンコ玉のように、その者に当たる前に地面に弾かれて落ちた。
「別に当たったところで痛くはないが、この星がバリヤー禁止じゃなくてよかったよ。それよりも、聞いていたルールと違うな」
 その者はそう言いながら腕を振り、棒で先頭にいたSPを払った。SPは横に飛ばされ、壁に打ち付けられてその場に倒れこんだ。その者は6本の腕で次々にSPをなぎ倒していき、首相はすぐに一人きりになった。首相は果敢にも銃をその者に向けたが、すぐに棒で銃を払われた。
「何者だ。何が目的だ」
 痛めた手を押さえて首相が相手を睨みつけた。
「まずはあんただ。あんたからこの星の全世界へ向けて発信しろ。この国は宇宙人に侵略されたとな」
「そんなことは出来るはずがない」
「そうだよな。だから、まずはこの国の軍を潰し、支援に来るほかの国の軍も潰す。まあ、お前はその気になったときにその発信をしてくれればいい。そこから他の国の侵略に移る」
「馬鹿な」
 二人が話している間に、廊下の奥から、同じく緑色をした体の大きな者が歩いてきた。目つきの鋭い者と同じ棒を一本持っている。
「こんなものか? 実にあっけない」
 体の大きな者は薄笑いを浮かべて言った。
「すぐに防衛軍がくる。そうなれば、お前たちは終わりだ」
 首相はそう言ったが、体の大きな者の笑みは消えない。
「しかし、こちらはお前たちのルールに従って戦っているのに、なぜこうも簡単にルールを破るのだ?」
 目つきの鋭い者が、退屈そうに言う。
「ルール? 何のことだ」
 首相が言う。体の大きな者が、手にしている棒を首相に向ける。
「お前たちの星では、これでしか戦わないと聞いた」
「そんな決まりはない」
 そう言い捨てる首相に、緑色の二人は目を合わせ、
「通信班め」
 と苦々しくつぶやいた。
「あいつらはいつもこうだ」
「おかしいと思ったんだ。こんな原始的な武器で戦うなんて」
 その時、首相の耳にセットしてある超小型のスピーカーから声が聞こえた。
「首相、防衛軍の配備完了です。そちらの様子も確認済み。難しい状況ですが、すぐに攻撃を開始します。最初の爆発音とともにその場に伏せて動かないでください。軍が速やかに首相を退避させます」
「よし」
 首相は小さくうなずいた。
「おい」
 体の大きな者が首相に詰め寄る。
「本当にそんなルール無いのだな? それが本当であれば、あいつらをまた叱らねばならん」
 首相は首を横に振った。
「突入まであと五秒」
 耳のスピーカーが音声を流す。
「そうか。この国の民間人は、戦闘についてブンツーで尋ねると、繰り返し、オモイヤリが大事だと述べていたそうだが、違ったか」
 そう言って、体の大きな者がため息をついたとき、建物全体に大きな爆発音が響き、廊下は一瞬で白い煙に包まれた。首相はその場に伏せ、緑色の二人はまた薄笑いを浮かべた。

genki


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