コブタ部屋

 空調機が冷風を吐き出す、微かな音だけが部屋に響いている。
 真四角な部屋には、ただ一つだけのドアがあり、他には窓一つ見られない。壁は白く、やたらと高い天井に埋め込まれているライトの光を反射している。
 部屋の中心には長机と椅子が置かれ、三匹のコブタが並んで座り、何かの作業に没頭していた。
 机の上には三つの木箱が置かれ、それぞれに、金属、白いガラスの破片、綿、のようなものが入っている。コブタたちは黙々とその部品を取り出し、組み合わせては分解しを繰り返しているようだった。
「できた」
 真ん中に座ったコブタがそう言って立ち上がった。テニスボールほどの白い艷やかな球体を手にしている。
「やっとできた。兄さんはまだかい?」
 隣のコブタに球体を見せるように腕を伸ばした。
「上手いもんだなあ。僕のはまだうまく組めないんだ。さあ、納品しておいで」
 隣のコブタが優しく声をかける。
「うん。行ってくる」
 真ん中のコブタはそう言って部屋から出ていった。
 残った二人はしばらく黙々と作業を続けていたが、左端に座ったコブタがしびれを切らしたように兄コブタに話しかけた。
「兄さん、僕は気になって仕方がないよ。僕達が作っているこれは一体何だろう」
 兄コブタは手を止めて弟を見た。
「お前も気になってしまったのか」
「兄さんもなの?」
「当たり前だろう。僕らは毎日ここでこれを作ってる」
「僕はまだ二個しか完成させたことがないよ」
 兄コブタは小さくため息をついて、首を左右に振る。
「綺麗な玉にするには、完璧な組み合わせでなけりゃいけないのさ」
 弟コブタは目前に置いた歪な球体に目をやり、
「一体これは何だろう」
 ともう一度呟いた。
 兄コブタはそれには答えずに、作業を再開した。半分ほど組み上がった、お椀のような物の中に、慎重に綿を敷いている。
 弟コブタはそれでも考え込むように手を止めていた。
 しばらく経ってから、席を立っていた真ん中コブタがドアを開けて部屋に戻ってきた。
「ふう」
 とわざとらしく息を漏らして席についた。
「ずいぶん時間がかかったな」
 兄コブタが声をかけると、真ん中コブタは「うん」と返事をした。
「今日は、納品場所に人がいたよ。こんなの初めてさ」
「ええ、それって、誰?」
 弟コブタが身を乗り出して聞いた。
「人間がいるの? 僕は今まで見たこともないよ。球を納品場所に入れれば終わりでしょ?」
「いつもはいないよ。でも今日はいた。真黒なスーツを着た人だったよ。髭が生えていた」
 弟コブタは人間が嫌いだったので、「おえー」と言って喉を押さえた。
「僕も会ったことがある」
 兄コブタが口を開いた。
「まだお前たちがいない頃、一人で作業をして納品をしていたことがある。その時に会ったことがある。確かに、黒いスーツを着て、髭を生やしていた」
「その人間にきけば、僕らが作っているものが何なのか、わかるんじゃないのかな」
 弟コブタが言った。兄コブタは首を横に振り、真ん中コブタは考え込むように俯いて黙った。
「ねえ、まだその人間はいるのかな。あのドアを何とか開けることはできないかな」
「無駄だよ。あのドアは納品する球がないと絶対に開きはしない」
 弟コブタと兄コブタが問答をしていたが、真ん中コブタはテーブルの上の部品を見て、静かに
「きいたよ」
 と言った。真ん中コブタのその言葉に、残りの二人は顔を見合わせた。
「きいたんだよ、その人に。僕たちが作っている物が何なのか」
「すごいや。それで、教えて貰えたの?」
 弟コブタが身を乗り出して訊ねた。兄コブタは探るように真ん中コブタの目を見ている。
「ああ、教えて貰えたよ」
「おい、それは簡単に話せるようなものか?」
 兄コブタは、諭すように真ん中コブタの肩に手をやる。
「わからない。それに、それをそのまま信じていいものかどうかも」
「大丈夫さ。何もわからないよりも、嘘だとしても情報があった方がいいに決まっているよ」
 そう言う弟コブタを目で制して、兄コブタは真ん中コブタに言う。
「じゃあ、その人がなんて言ったのか、ここで教えてくれ」
 真ん中コブタはゆっくりと一息ついた後に、口を開いた。
「今、外の世界は全ての物が機械によって作られてるんだって。それこそ全ての物さ。洋服とか、食べ物とか、乗り物とかね。だけど、それを作っている機械もまた、機械生産されているって言っていた。機械を作る機械。不思議な話だったよ。でもそうしないと、完全に人の手が自由にならないんだって。彼らは今、テクノロジーの終着点に近づいているって言っていた」
「それで、結局これは、僕らが作っているこれは、何のための物だったの?」
 弟コブタが早口で急かした。
「これは、その機械生産の流れの中の、機械を作る機械を作る機械を作る機械の為の部品の一つだそうだ」
 その言葉に、他の二人は言葉を返さず、部屋はまた沈黙に包まれた。真ん中コブタは変わらずテーブルの上のを見つめている。
「うん」
 沈黙を破るように、兄コブタがいい、木箱に手を伸ばす。
「本当かどうかはともかく、答えは出たのだから、作業に戻ろう」
「でも」
 弟コブタは何か考えているようだった。
「よくわからないけれど、それってどこまで続くんだろう」
「いいから、作業を続けるんだ」
「機械を作る機械を作る機械って、どこまでも終わらないじゃないか、それに…」
「おい」
 兄コブタが声を荒げる。珍しいことだったが、弟コブタは構わずに続けた。
「それなら、僕たちはいったい何なんだ? 僕たちも? 僕たちはまさか」
「いい加減にしろ。そんな話信じることはない、さあ、作業をするんだ」
 兄コブタはそういって綿を詰める。柔らかく、柔軟性に富むそれは、いくら押し込んでもすぐに膨らんで、作り上げた器から溢れ出てきてしまう。
 弟コブタはうつむいて自分の手を、真ん中コブタはテーブルの上の部品を見つめたまま動かない。
 部屋にはまた、空調機の微かな作動音に満たされていく。
 
genki

空調機が冷風を吐き出す、微かな音だけが部屋に響いている。
真四角な部屋には、ただ一つだけのドアがあり、他には窓一つ見られない。壁は白く、やたらと高い天井に埋め込まれているライトの光を反射している。
部屋の中心には長机と椅子が置かれ、三匹のコブタが並んで座り、何かの作業に没頭していた。
机の上には三つの木箱が置かれ、それぞれに、金属、白いガラスの破片、綿、のようなものが入っている。コブタたちは黙々とその部品を取り出し、組み合わせては分解しを繰り返しているようだった。
「できた」
真ん中に座ったコブタがそう言って立ち上がった。テニスボールほどの白い艷やかな球体を手にしている。
「やっとできた。兄さんはまだかい?」
隣のコブタに球体を見せるように腕を伸ばした。
「上手いもんだなあ。僕のはまだうまく組めないんだ。さあ、納品しておいで」
隣のコブタが優しく声をかける。
「うん。行ってくる」
真ん中のコブタはそう言って部屋から出ていった。
残った二人はしばらく黙々と作業を続けていたが、左端に座ったコブタがしびれを切らしたように兄コブタに話しかけた。
「兄さん、僕は気になって仕方がないよ。僕達が作っているこれは一体何だろう」
兄コブタは手を止めて弟を見た。
「お前も気になってしまったのか」
「兄さんもなの?」
「当たり前だろう。僕らは毎日ここでこれを作ってる」
「僕はまだ二個しか完成させたことがないよ」
兄コブタは小さくため息をついて、首を左右に振る。
「綺麗な玉にするには、完璧な組み合わせでなけりゃいけないのさ」
弟コブタは目前に置いた歪な球体に目をやり、
「一体これは何だろう」
ともう一度呟いた。
兄コブタはそれには答えずに、作業を再開した。半分ほど組み上がった、お椀のような物の中に、慎重に綿を敷いている。
弟コブタはそれでも考え込むように手を止めていた。
しばらく経ってから、席を立っていた真ん中コブタがドアを開けて部屋に戻ってきた。
「ふう」
とわざとらしく息を漏らして席についた。
「ずいぶん時間がかかったな」
兄コブタが声をかけると、真ん中コブタは「うん」と返事をした。
「今日は、納品場所に人がいたよ。こんなの初めてさ」
「ええ、それって、誰?」
弟コブタが身を乗り出して聞いた。
「人間がいるの? 僕は今まで見たこともないよ。球を納品場所に入れれば終わりでしょ?」
「いつもはいないよ。でも今日はいた。真黒なスーツを着た人だったよ。髭が生えていた」
弟コブタは人間が嫌いだったので、「おえー」と言って喉を押さえた。
「僕も会ったことがある」
兄コブタが口を開いた。
「まだお前たちがいない頃、一人で作業をして納品をしていたことがある。その時に会ったことがある。確かに、黒いスーツを着て、髭を生やしていた」
「その人間にきけば、僕らが作っているものが何なのか、わかるんじゃないのかな」
弟コブタが言った。兄コブタは首を横に振り、真ん中コブタは考え込むように俯いて黙った。
「ねえ、まだその人間はいるのかな。あのドアを何とか開けることはできないかな」
「無駄だよ。あのドアは納品する球がないと絶対に開きはしない」
弟コブタと兄コブタが問答をしていたが、真ん中コブタはテーブルの上の部品を見て、静かに
「きいたよ」
と言った。真ん中コブタのその言葉に、残りの二人は顔を見合わせた。
「きいたんだよ、その人に。僕たちが作っている物が何なのか」
「すごいや。それで、教えて貰えたの?」
弟コブタが身を乗り出して訊ねた。兄コブタは探るように真ん中コブタの目を見ている。
「ああ、教えて貰えたよ」
「おい、それは簡単に話せるようなものか?」
兄コブタは、諭すように真ん中コブタの肩に手をやる。
「わからない。それに、それをそのまま信じていいものかどうかも」
「大丈夫さ。何もわからないよりも、嘘だとしても情報があった方がいいに決まっているよ」
そう言う弟コブタを目で制して、兄コブタは真ん中コブタに言う。
「じゃあ、その人がなんて言ったのか、ここで教えてくれ」
真ん中コブタはゆっくりと一息ついた後に、口を開いた。
「今、外の世界は全ての物が機械によって作られてるんだって。それこそ全ての物さ。洋服とか、食べ物とか、乗り物とかね。だけど、それを作っている機械もまた、機械生産されているって言っていた。機械を作る機械。不思議な話だったよ。でもそうしないと、完全に人の手が自由にならないんだって。彼らは今、テクノロジーの終着点に近づいているって言っていた」
「それで、結局これは、僕らが作っているこれは、何のための物だったの?」
弟コブタが早口で急かした。
「これは、その機械生産の流れの中の、機械を作る機械を作る機械を作る機械の為の部品の一つだそうだ」
その言葉に、他の二人は言葉を返さず、部屋はまた沈黙に包まれた。真ん中コブタは変わらずテーブルの上のを見つめている。
「うん」
沈黙を破るように、兄コブタがいい、木箱に手を伸ばす。
「本当かどうかはともかく、答えは出たのだから、作業に戻ろう」
「でも」
弟コブタは何か考えているようだった。
「よくわからないけれど、それってどこまで続くんだろう」
「いいから、作業を続けるんだ」
「機械を作る機械を作る機械って、どこまでも終わらないじゃないか、それに…」
「おい」
兄コブタが声を荒げる。珍しいことだったが、弟コブタは構わずに続けた。
「それなら、僕たちはいったい何なんだ? 僕たちも? 僕たちはまさか」
「いい加減にしろ。そんな話信じることはない、さあ、作業をするんだ」
兄コブタはそういって綿を詰める。柔らかく、柔軟性に富むそれは、いくら押し込んでもすぐに膨らんで、作り上げた器から溢れ出てきてしまう。
弟コブタはうつむいて自分の手を、真ん中コブタはテーブルの上の部品を見つめたまま動かない。
部屋にはまた、空調機の微かな作動音に満たされていく。
 
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