銀河青年の空隙

 窓の外では色とりどりの星屑達が、宇宙の暗闇の中を漂っている。ムギはそれを眺めながら、頭を空っぽにしている。何しろ長い道のりなので、もう外を眺めることにも飽きているのだ。何度見ても宇宙は広すぎた。
 船内には微かに聞こえるほどの小さな音で流行りの音楽が流れている。ムギはその発音の難しい歌詞の意味を考えて時間を潰すことにした。幸いにも、その歌の言語を彼はほとんど知らなかったので、それはいい時間つぶしになった。曲の雰囲気から、どのような意味を歌っているのかに考えを巡らせる。
 船内にいる彼以外の生徒もそれぞれに時間を過ごしていた。あるものは本を読み、あるものは友人と話し、あるものは寝ている。しかし、船内に残っている生徒は少ない。ほとんどの生徒は既に自分の目的地で降りていた。
「ムギ」
 後ろから声をかけられ、ムギは振り返った。後ろの席にはクラスメイトのブランが座っていた。
「ムギ、お前も変人だな。こんな長い時間無駄にして、どこまで行く?」
 ブランは退屈そうにきいた。
「地球」
 ムギが答えると、ブランは興味を持った様子で、「へえ」ともらした。
「地球といえばまあまあの星だけど、あと少し先に行けばもっと快適で科学の進んでいる惑星もある。音楽がいいのは認めるが、それ以外はいまいちだ。住人は臆病で攻撃的だぜ」
 ブランはそう言ってニカリと笑った。
 ムギは頷いて、
「まあね。それに今のところ、スクールの学習旅行以外の入星を禁止している」
 と静かに言い、「ところで」と続けた。
「お前はどこへ行くんだ」
「俺は宇宙のふちを見に行くんだ」
 ブランは自慢げに答えた。
「そのためにこんなオンボロ船に長々と揺られてる。旅行学習の行き先が自由なのはいいいが、皆で同じ船で行かなきゃいけないなんて、どうかしている」
「そうだな」
「でもいいぜ、宇宙の縁なんて、簡単にみれるもんじゃない。児童学習の自由化運動に感謝だぜ」
「申請はどうやって出した?」
「歴史学習だよ。かつての宇宙流し最高刑の場所を見学するのさ」
「よく通ったもんだ」
 ムギが笑うと、ブランはまあな、と言ってまたニカリと笑った。
「お前はどうなんだ‽ どうして地球に行く?」
 ブランがムギにきいた。
「やっぱり音楽か?地球にもファンはいるが、みんな音楽が好きだ」
「いや、違うよ」
 ムギはそう答えてまた窓の外へ目をやった。遠くに宇宙くじら見えた。太陽からの光を浴びて3色に光っている。
「俺は、恋愛というやつを見てみようと思うんだ」
「恋愛?そいつはなんだ?」
「知らないだろう? 俺も詳しくは知らない。ただ、地球にはそれがあるらしい」
 ムギがそう言うとブランはいろいろ考えているようだったが、「変わったヤツだな」と、背もたれにもたれかかり、目を閉じた。
 船内を流れていた音楽が終わり、DJがその曲が辺境の惑星のビートルズというグループが作ったものだと伝えた。
 ムギはまた頬杖をついて窓の外の暗闇を眺める。
 宇宙クジラは悠然と泳ぎ、ムギたちの乗る宇宙船を優しく見つめている。

genki


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