頭上の青と向かいのハンドバッグ(essai)

細かい振動の中に、時折突き上げるような縦揺れがある。イヤホンで洋楽を永遠と流しながら目をやると、頭上左手の小さな窓から青空がのぞいている。窓の高さは一メートルちょっとだろうか。床に座っている僕から見るとそこは、ただただ一面青く塗りたくられているように染まっている。
僕はもの凄くずぼらで、どうしようもなく行動が遅いので、その日も指定席が取れなかったのだ。仙台から東京までの二時間弱の間、車両の連結部で過ごすことになり、しばらくは立ったりしゃがんだりしたのだが、三十分ほどして、(さてこのままではくたびれてしまうぞ)と、思い切って床に腰を下ろしたのだ。 そこには僕のほかに二人いて、反対側の乗降口のおばさん、そして僕と窓の間にいるお姉さんだ。彼女たちは僕と同じようにそれぞれ立っていたのだけれど、僕が座り込むのを見てそれに続いて同じように座った。みんな疲れているのだ。
お姉さんは僕と窓の間に、方向としては僕と向かい合う形で座っていた。顔を伏せて眠っているようだった。耳にきれいなピアスが揺れている。お姉さんを盗み見てから、上の窓に目をやった。窓からは空しか見えなくて、時たま雲が流れたり、電柱が通り過ぎて行く。この景色は、ここに座った人にしか見ることができない。グリーン席の人にも、弁当を食べている人にも見ることはできない小さな絵のような窓。その日の天気は最高で、澄んだ、濃くて深いブルーの空だった。見上げているとどうも得をした気分になる。
それからはスマートフォンで読書をして時間をつぶした。結局、向かいの女性は大宮まで起きることがなかった。僕の正面に、彼女が可愛らしいハンドバッグを置いていたおかげで随分窮屈な思いをした。足を延ばせず、窮屈な体育座りのような格好で仙台から大宮まで揺られていたのだ。お尻は体重を一身に支え、細かい振動に何とか耐えて頑張っていた。
僕は何度も小さな窓の青と、隣の彼女のピアスを見て気を紛らわした。

genki


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